~パンを作る。老舗の味を守る。次世代に繋ぐ。~

日本全国にあるパン屋さんの件数は約10,060件。(2016年のデータ参照)
1件に一人のパン職人さんがいらっしゃると考えても、約10,000人近いパン職人さんが日本国内にはいらっしゃいます。
パンは小麦粉に酵母と水と塩を加え捏ね上げ、発酵~分割~ベンチタイムを行い、成形~最終発酵を経て焼き上げます。
この一連の工程は、作るパンによって若干変われど基本は変わりません。
日々変わる温度、湿度、水温などを確認して仕込みを行う。
お店に来て下さるお客様にいつもと変わらぬ味を提供し続けるシェフの仕事。
京都において創業70年を超える老舗ベーカリー株式会社志津屋 本社工場 鳥居工場長にパン作りについての様々なお話を伺いました。

■パン作りに出会うまでのことについてお教えください。

京都伏見生まれの静岡育ち。
親戚が多いこともあり、京都の大学に進学と同時に志津屋でアルバイトを始めました。

最初は本社勤務で天板拭きや成形をやっていたのですが、当時四条にある店舗の5階でパン教室を行っており、そのアシスタント任されたのでアルバイトなのに転勤になって(笑)
転勤初日にやったことない「ドーナツ揚げ」をやらされたり・・・
揚がったらドーナツにクリームを詰めたり・・・
一週間もしたらチーフが「休憩行くから窯やっといて!」と。
見様見真似で覚えるしかなくてと言うより、せざるを得なかった。

けど、パン教室のアシスタントをしていたことが、そこで生かされました。
講師の説明は、一般の方へわかりやすく伝えることが前提でしたので、その咀嚼された言葉を理解すればよかった。
当時の自分は一般の方と同じで、パンのことがまだまだ未知の世界でした。

「見て覚えろ!」「自分で考えろ!」という時代。
理論はパン教室で、技術は現場で覚えることが出来ました。
仕事を通じて、学べるいい時代でした。

■アルバイトの時からパン職人としてずっと続けていく覚悟だったのですか?

日常を積み重ねて来たらここまで来たって感じかな。

パンを作りたいという衝動よりも、サラリーマンとしてやってきた感じが強いです。
例えるなら、パンを作るサラリーマンという感じです。
技術をどんどん磨いて職人になるというより、技術者として会社の一員でいたい。
そんな想いで、ここまで来ています。

■日々同じものを作り続けることの大変さは?

日々納得しない。
最高点を求めない。


100点ってなかなか取れないし、取り続けること自体非常に難しい。
70~80点で良いのではと考えています。

私の働く現場は志津屋の本社工場なので、毎年新入社員が入ってきます。
新入社員であろうが70点、80点取り続けられるような仕組みを作る。
それが難しい。

職人の「感」に頼って毎日平均点を取れるようでは駄目。
個人の能力の差によって出来上がるパンが違ってくることは、絶対に駄目なこと。

例えば、個人店で1人のシェフが職人の「感」を頼りにやっている分には良いかもしれないけど、うちはそうじゃない。
企業として、これからも100年200年続けていかなければいけないから、ちゃんとしたレシピがあって、誰がやっても出来るという仕組みを作る。
そうじゃないといけないと思っています。

■そのような事をお考えになられたのは初めからですか?

いやいやそんなことない。
自分の立場が変わって任せてもらうようになってきてからかな・・・
打てど響かずと言った世代が入社してくるようになってきてからかな(笑)

■教える難しさなどをお聞かせください。

パンを作る以前に、社会人としての基本を教えます。
そう言ったことを始めに教えないまま、「ええパン作れよ!」みたいなことを言うのは違う。
それが人に教えることの難しさでもあるよね。
それからパン作りを教える。

志津屋のパンは手作りの部分が多いし、そこが難しい。
人の手が多ければ多いほど実はブレやすい。
そこをブレないようにするために、どこまで機械化するかを考えます。
機械はあくまでも手作りの補助でしかないので。

また、どういうルールを作って運営するか。
きちんとパンが出来るという仕組みを作っていかないといけない。
誰がやっても同じものが出来る仕組みを。
数値化したり文章化したりして、伝えるようにすることだよね。

■老舗の味を守る。

温故知新(ふるきをたずね、あたらしきをしる)
株式会社志津屋 現社長 堀三津雄様にお聞かせいただいた言葉。
人の味覚は進化している。
すなわち今の味覚に合わないと言うことは美味しくない。
大きな変化はないかもしれないが、日々おいしいと感じる方向へ志津屋のパンは進化し続けている。

■実際に製造現場に入られて志津屋さんの味を守り続けている鳥居工場長にとって、老舗の味を守る上で気を使われている点などお教えいただけますか?

伝統って言うのは「革新」
目に見えない小さな革新の積み重ね。
昔のまま残っているのは「化石」

目に見えないマイナーチェンジをしながら、その時々のエスプリを取り入れつつ、進んでいかないと生き残っていくことは出来ない。

創業当時の味は、その当時の人たちが食べていた味であって今の味ではないよね。
だから、カルネにしたってベースの生地配合も当時とは変わっているし、当然挟んでいるハムも塗っているマーガリンも違う。
ただ、そんなに変わったねって気が付かれない程度に変えていっています。
日々変化する時代で、その時に「おいしい」と思ってもらえたらそれでいいんじゃないかな。

変化を恐れない。次に繋げていく仕事。
それが伝統だと思います。

■いまや、京都のソウルフードと呼ばれる「カルネ」
カルネに使われているパン「カイザーロール」についてのこだわりをお教えください。

これはすべてのパンに言えることですが、生地の仕込みは気を抜けません。
ベースが駄目だと、後で修正が効かない。
もちろん、仕込み以外の工程も気を抜くことは出来ませんがね。

あと、余分な添加物は入れない。
カルネに使われているパン「カイザーロール」はドイツ発祥のパンです。
だから、焼成に関してはすべてドイツ製のオーブンで焼いています。
ドイツの製のオーブンは密閉度が高く、火抜けがすごく良い。
窯伸びの時に、しっかりと縦方向に上がります。
クラムの気泡の大きさも重要なポイントです。
カイザーロールは元々、砂糖も油脂も入る生地だから目は詰まるよね。
焼き上ったカイザーロールはサンドイッチにすることが大前提なので、気泡が詰まっている方がいい。
フランスパンのように大きな気泡になるとソースなどが流れ落ちてしまうので、キメ細かな気泡の方がいいのです。

実際のドイツのカイザーロールと、うちのカイザーロールは違うよね。
最近のカイザーロールって脱脂粉乳も入るし、ライ麦が入っているものもあるよね。
うちみたいな白いカイザーロールって中々無いのでは?

秘密じゃないけど、カイザーマシーンは入社した時からあったね。
今思うとすごいよな。
もちろん今使っているマシーンとは違うけど。

※カイザーマシーンとは、カイザーロールのスタンプマシーンのことです。分割されたパン生地をマシーンに流し、自動的にスタンプを押す機械です。

■情報収集等を兼ねてパン屋巡りとかされますか?

パンやお菓子などの情報は、テレビを見ようがスマホを見ようが街を歩こうが、勝手に入ってきて残っていくよね。
だから、情報収集の名の下でのパン屋巡りはしない。
それよりも、日々勝手に入ってくる情報をどう取捨選択するかが大切なのではと思います。
しいて言うなら、物を作る仕事をしているので、美しいものを見ておいた方がいいのかなと思って美術館に行くことが多いです。

好きな場所は大阪の中之島にある東洋陶磁美術館。
綺麗な色付ける宮下善爾さんが好き。
河井寛次郎も好き。
四条通りにある何必館にある魯山人も常設されているのでよく見に行きます。

陶芸って自分の思うとおりに行かない奇跡の産物ですよね。

■捏ねて焼く。パンに近いかもしれませんね。

確かに近しい部分はあるかもしれないけど、パン職人は芸術家でも何でもない。
お客様が食べて「おいしい」って言って下さるパンを作る人だから。

■鳥居工場長が考えるおいしいパンのとは?

おいしいパン?
おいしいパンな・・・
おいしいって言ったって色々あるしな。

同じパンでも、その時々にどういう状況で食べるかで変わってくると思う。
例えば一人で食べるのと誰かと食べるのでは、パンに限らずおいしいの感じ方って変わるよね。 ずっとおいしいと思えるのは、シンプルなパンかな。

■最後に家庭製パンされている方にアドバイスをお願いします。

僕からのアドバイスなんて、おこがましい・・・

自分が作ったものって、必ずおいしいものが出来るはず。
硬ければ硬いなりに、柔らかければ柔らかいなりに、おいしいはず。
楽しみながら作って、楽しみながら食べることが大事。
仕事じゃないから楽しんでやりましょう!
毎日パンと向き合い、日々の仕事に満足せず。
昨日より今日。今日より明日にはもっと良いパンが作りたい。

仕事と職人と言う言葉の意味。
仕事とは=何かを作り出す、成し遂げる為の行動。
職人とは=自身の技能でものを作る。

生命活動に必要な食作りに関わり、それを自身の技能で創造し
「おいしい」という満足を与え続けるパン職人。

普段食しているパンの裏側に目を向けると
鳥居工場長はじめ、数多くの職人さんの技術によって支えられていると感じずにはいられません。


■住所
〒615-0096 京都市右京区山之内五反田町10

■電話
075-803-2550

■FAX
0748-86-4418

■営業時間
7:00~20:00

■定休日
1月1日

■HP
https://www.sizuya.co.jp/

志津屋さんの店舗は、本店含め京都に22店舗ございます。
詳しくはHPよりご確認いただけますと幸いです。



Text by 井上 / Photo by 丸田

志津屋の味をぜひご家庭で♪

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