麹(こうじ)で酵素を
駆使するパンの講習会

2025年3月25日(火曜日)
会場:株式会社トクラ大阪
主催:Kの会
協力:株式会社樋口松之助商店、飯田商事株式会社、
おかしなこうじや、
沖縄ハム総合食品株式会社 、
戸倉商事株式会社、株式会社トクラ大阪


近年パンのトレンドになりつつある「麹(こうじ)」
その麹(こうじ)を使った講習会を、Kの会様主催で行なっていただきました。

講師に「ブラフベーカリー」の栄徳シェフ、講師兼アシスタントに「涼太郎」の渡邉シェフ、講師兼アシスタントに「ビブレ アーティザンブレッド」の得居シェフに、
麹(こうじ)を使った製パンの実演を演を行なっていただきました。
また、「株式会社樋口松之助商店」の山下博士と丹波で麹(こうじ)の製造販売をされている「おかしなこうじや」代表の
本間さんに麹(こうじ)についてのお話をしていただきました。
麹(こうじ)と酵素を駆使するパン作りの講習会ということもあり、日本全国から名だたるシェフと家庭製パンの先生36名、
台湾からも15名ものシェフが参加下さいました。

Chef
講師のご紹介

栄徳えいとく つよし シェフ

BLUFF BAKERY ブラフベーカリー

1976年横浜のパン屋の息子として誕生。
東京製菓学校卒業後、横浜本牧の「ラミ・デュ・パン」にてドミニク・トレモロ氏に師事。
「ホリデイ・イン」(現「ローズホテル」)シェフ就任。
「グランカフェ新橋ミクニ」の立ち上げを行い、東京三宿の「ブーランジェリー ラ・テール」「アルティザン・テラ」統括シェフに就任。
2010年地元横浜にアメリカンスタイルの「ブラフベーカリー」をオープン。
2017年「アンダーブラフコーヒー」と「ブラフベーカリー日本大通り店」をオープン。

Assistant講師兼アシスタントシェフのご紹介
アシスタントシェフのご紹介

渡邊わたなべ 涼太郎りょうたろう シェフ

涼太郎りょうたろう

「メゾンカイザー」などで20年以上の経験を積まれ、2018年に愛知県名古屋にてご自身のお名前を冠した「涼太郎」をオープン。

得居とくい 則広のりひろ シェフ

be-blé ARTISAN BREADビブレ アーティザン ブレッド

1968年愛媛県出身、28歳で脱サラ後パン屋に転身。
2003年ブーランジェリー プース・ド・シェフとして独立開業。
2022年移転を機に「ビブレ アーティザン ブレッド」へ屋号を変えて現在に至る。

黒麹ニッポンノサワードゥ
BLUFF BAKERY(ブラフベーカリー)栄徳 剛シェフ

今回のテーマは「麹(こうじ)」です。伝統的な素材で昔から憧れはありました。
麹は国菌(コッキン)です。
この日本を代表する「麹(こうじ)」の世界観を自分のスタイルに組み入れたメニューを考えました。

今回、「おかしなこうじや」の本間さんからいただいた黒麹に興味を惹かれました。
すごく酸味がありました。キレの良い酸味と表現したらいいのでしょうか。

この黒麹を使えば、サワードゥとして面白いものができるのではと直感的に感じました。
麹って酵素なので、どのように動いていくかがわかりにくい。
そういったことが難しくもあり、楽しい部分でもありました。
黒麹ニッポンノサワードゥーには、黒麹酒種と黒麹甘酒を使い、穀物の香りが強いキヌアフラワーを5%ほど配合。
使用した黒麹の酸味は思っていたほど出なかったのですが、黒麹の独特な特徴を引き出せたパンに仕上がったと思います。

パートキッシュ
BLUFF BAKERY(ブラフベーカリー)/ 栄徳 剛シェフ

埼玉県産小麦品種である「あやひかり」を使ったキッシュです。

生地のミキシングは粉っ気が無くなればOK。ビニールに入れて冷凍させ強制的に水和させます。
解凍後3mm厚ぐらいでリバースで伸ばす。

生地に麹(こうじ)は使用していないのですが、アパレイユに塩麹とグリュエールチーズをトッピングすることで、旨みを付与しながら塩味が強くなるのをコントロールしました。
生地をカラ焼きしてドリュールする理由は、カラ焼きした際の生地の穴やヒビ割れをドリュールして軽く焼き固めることでアパレイユを流し込んでも生地に染み込んだり、流れ出るのを防ぐためです。

バインミーの再構築
BLUFF BAKERY(ブラフベーカリー)栄徳 剛シェフ


栄徳シェフのスペシャリテのバインミーの再構築。
バインミーといえば、ボリュームがあり、軽い口当たりが特徴的なパンです。
今回の講習会のために、甘味が強く、すっきりとした味わいが特長の「あめこうじ」を使用。
あめこうじの元となった親株は吟醸酒用麹菌です。
あめこうじで、甘酒を作った場合、従来の白色系麹の甘酒と比較すると、甘味が強く(糖度を示すBrix%が15~20%高い)、すっきりした味(アミノ酸量が20~30%低い)
小麦粉は前田農産のキタノカオリを使用しており、生地作りのポイントは、キタノカオリのミキシングは、混ぜるか、混ぜないかのどちらかにしたほうがいい。
中途半端はダメ。混ぜないのであれば、パンチで生地を繋げていく。ミキサーで回すのであればしっかりと繋がるまで回したほうがいい。

今回焼成したバインミーを、丹青(たんせい)の船井シェフがランチ用にサンドイッチを作ってくださいました。
バインミーには、ハムで作ったリエットと、なます。エビはカレーで味付けをして鯖のトマトソースと刻んだナッツ&フライドオニオンとピクルスをサンド。
もう1品はシェフ自家製のプルドポークを使ったホットサンド。

麹(こうじ)についての座学
株式会社樋口松之助商店

株式会社樋口松之助商店さんは、創業1855年の米麹、豆麹などの元になる種を作られている会社です。
麹(こうじ)の世界では「ヒグチモヤシ」の名で知られています。
その歴史ある会社の取締役研究室長で博士(医薬学)の山下秀行先生より麹(こうじ)についてのお話がありました。
その一部を抜粋してご紹介します。

麹菌は平成18年に日本醸造学会によって ”国菌(コッキン)” に認定されました。
麹(こうじ)は ”酵素の宝庫” と言われるほど多種多量の酵素を含んでおり、その力で穀物を分解します。
そのため麹(こうじ)自身は糖・ペプチド・アミノ酸・ビタミン・ミネラルが豊富に含まれています。
パンには酵母・乳酸菌が使われていますが、近年「麹」が注目されつつあります。
酵母や乳酸菌を使ったパン作りはコントロールすることは確立されていますが、麹(こうじ)ではどうでしょうか?
麹(こうじ)を入れすぎると、麹(こうじ)の酵素がどんどん働いてパンが膨らまないなどが起こります。
酵素発酵をコントロールできれば、パンがもっと良くなるのではないでしょうか?
麹(こうじ)をパンに取り入れる方法として、一番おすすめするのは甘酒です。
理由として、麹(こうじ)にはたんぱく質をアミノ酸に分解したり、でんぷんを糖に分解したりする酵素が豊富に含まれています。
これらの酵素が働き、アミノ酸などのうま味や糖が生成されることで、パンの風味や食感が向上します。
強く美味しさを感じると言うより、弱い美味しさを感じるのですが、非常に奥深い美味しさになるのが特徴です。

麹(こうじ)についての座学
「おかしなこうじや」代表の本間速さん

山下先生の麹(こうじ)の座学の後に、兵庫県丹波市で麹の製造販売をされている「おかしなこうじや」代表の本間 速さんに麹(こうじ)と酵素の話をしていただきました。
微生物に興味があり高校卒業後に酒蔵に就職し麹に出会われ3年ほど前に開業。
日々麹(こうじ)と向き合われている方であります。
本間さんのお話の中から一部抜粋してご紹介します。

美味しい甘酒の作り方

真空断熱の水筒を用意し、熱湯を注ぎ入れ、その中に米麹を入れて混ぜる。
混ぜ合わせたら、大体温度が60℃前後になります。
出来れば、ば63~64℃になるように混ぜ合わせます。
そのまま6~8時間保温すれば完成です。
よく60℃を超えると麹(こうじ)の酵素が失活すると言われていますが、63~64℃ぐらいであれば全ての酵素が失活すると言うわけではない。
パンに使った時の失敗事例として、甘酒を仕込んだ際にいつもより3℃ほど温度が低い時がありました。その時は、焼成後のパンに酵素が残存してしまった。

愛知バゲットのチョコレートフランス
涼太郎 / 渡邉 涼太郎シェフ

愛知県名古屋の「涼太郎(りょうたろう)」の渡邉 涼太郎シェフに、2品実演していただきました。
パンに麹(こうじ)をいち早く取り入れられ、麹(こうじ)について深く精通されたシェフです。
今回お作りいただいた愛知バゲットは、小麦品種ゆめあかりと知多半島で採れた海水から作られた美浜の塩、愛知の醤油麹に味噌麹、三河味醂など愛知県産の原材料で作ったパンです。
また麹湯種と涼太郎シェフ特製「レスト甘酒」も配合した逸品です。

そもそも涼太郎シェフが麹(こうじ)を使おうと考えられたのは、酵母の状態と旨みをどうやって高めようかと考えた時に出会ったのがキッカケです。
「麹(こうじ)を使うことで、美味しくなるのであれば使おう。」これが理由。

麹湯種と甘酒のブリオッシュ
涼太郎 渡邉 涼太郎シェフ

通常ブリオッシュはバターで作るが、このブリオッシュはバターを使っていません。
バターは冷えたら固まるため、翌日のパンがすごくパサつく。これを解消させるため、固まらないバターを使ってパンを焼きたいと乳業メーカーに相談したところ、「生クリームを使えばいい。」とアドバイスいただき生クリーム100%で作っています。
甘酒も入れているので、しっとりとしていて優しい甘さもあるブリオッシュに仕上がっています。

パン・コンプレ
be-blé ARTISAN BREAD(ビブレ アーティザン ブレッド)/ 得居 則広シェフ

ご自身のお店で製粉されたニシノカオリ(全粒粉)50%と、ローカルミリングの限りなく全粒粉に近い粉(はるきらり)を50%使ったコンプレです。
麹(こうじ)は甘酒にして使われています。


Other
講習会の様子

End.
最後に


10時から始まった講習会。気がつけば終了の時間になりました。
理論と技術とが組み合わされて、麹の可能性を非常に感じられる1日でした。
麹という日本古来の素材を使った講習会。参加された皆さんの目が輝いていたのが印象的でありました。

故きを温ねて新しきを知る。

この言葉がぴったりな講習会。
ママパンとして参加させていただきましてありがとうございました。