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"ココロ・カラダに、おいしい毎日"
2024年8月28日(水曜日)
会場:株式会社トクラ大阪
主催:戸倉商事株式会社、株式会社トクラ大阪
協力:江別製粉株式会社
1955年7月19日 新潟県 松之山生まれ。
哲学者を目指すも22歳でパンの世界へ。
その後、(株)アートコーヒーを経て「カフェ・アルトファゴス」、「パティスリー・ペルティエ」(東京・赤坂)シェフ・ブーランジェに就任。
2002年以降、「ユーハイム・ディー・マイスター丸ビル店」(東京・丸の内)や「フォートナム・アンド・メイソン」(東京・丸の内など)でシェフ・ブーランジェを兼任した後、2006年10月に「シニフィアン シニフィエ」(東京・世田谷区)をオープン。
低温長時間発酵のパイオニアと呼ばれ、熟練された技術と豊かな想像力で新しいパンの世界を繰り広げられています。
今回の講師である志賀勝栄シェフから大きな影響を受け、神戸屋やブルディガラ、ユーハイムなどの名店でパン職人としての経験を積んだのち、THE CITY BAKERY統括シェフなどを経験。
2018年3月に京都北山にて『_AND Bread』をオープン。
株式会社リクルートに入社後、Signifiant Signifiéに入社し志賀勝栄シェフの元でパン職人の道へ。
ドイツを旅し、感じたことを実践しながら、2016年兵庫県丹波市に通販専門のベーカリー『HIYORI BROT』をオープン。
台湾出身で、日本でブーランジェとして独立する夢を叶えるため『マダムルージュ』などで修業を重ね、2020年に『和 BREAD SHOP』をオープン。
瞬く間に人気を博し、2022年11月東京世田谷に『33 San ju san』をオープン。
8歳でパン職人に憧れ、パン屋になることを夢見る。
18歳から福岡の老舗ベーカリー「パン・ナガタ」などで経験を積み、24歳からは行列の絶えない福岡の名店「Pain Stock」にてスーシェフを努める。
2016年から自身の店である「マツパン」を福岡市にオープン。
1982年創業の「株式会社小麦屋」の代表取締役に2018年就任。
2019年岐阜県にベーカリーカフェ「ESPRIT(エスプリ)」をオープンし、現在は岐阜県や愛知県に5店舗を展開。
弊社取締役副社長、トクラ大阪専務取締役の杉江による挨拶より、講習会が始まりました。
低温長時間発酵のパイオニアであるシェフの生地を触れる、とても貴重な機会に多くの方が成形に参加をされました。
今回、アレンジを含めると18種類ものパンを講習会の限られた時間の中で焼いていただきました。
これほどの種類のレシピ作成に関して、特に悩みはしなかったとのこと。
多ければ1日に10~12品ものレシピを考えることがあり、何の抵抗もないとおっしゃっていました。
基本的にテストは1回くらいで、季節や小麦のロットによっては調整をされるようです。
レシピの公開に関しても抵抗はなく、志賀シェフが「美味しい」と思ってつくったレシピであるので、それを美味しいと感じるかは人によって違ってきます。
今回のレシピを元に、「自分ならこうする」等の工夫やアレンジを入れて作り上げてくださいとエールを送られていました。
オーガニックのフランス産小麦粉以外は、全て国産小麦粉を使用されています。
「ハード系のパンは、やはり外国産の方が適しているのでは?」という質問に対して、どの飲食業界でもですが、フードマイレージの問題や、自分が生まれ育ったところでつくるものが全て外国産でいいのか?とご自身のアイデンティティについてお話も頂きました。
使いやすい・安いというだけでなく、自分が生まれ育った国のものを使ってつくるということを大切にされ、日本人としてパンをつくる中で「国産」にこだわるスタンスを貫かれています。
「どれが好きな小麦粉ですか?」という質問に対して、「全部好きなくらい色々と実際に使用しています。」との回答でした。
その粉の持ち味を生かしつつ、足りない部分は自分の工夫でプラスされているとのことです。
小麦粉のことを理解し、理想まで持って行ける知識と技術のあるシェフだからこその発言と感じました。
今回のレシピの多くに「5倍量ソース」という、いわゆる湯種に近いものが使用されています。
小麦粉に対して5倍の量の水で溶き、火にかけながら65~70℃になるまで混ぜたものです。
温度に関して70℃までとしているのは、時間の経過とともに甘みが増すことを狙って小麦の酵素をあえて少し残すようにされています。
この方法で、でん粉を分子レベルでアルファ化させ、すごくもちもちとした引きの強い食感となっていました。
完全に殺菌できるまで温度は上げていないので、当日~翌日には使い切るようにされています。
今回バゲットやパン・ド・ミにローストした小麦粉を使用されています。
上火240/下火230℃くらいで約20分ほど、カードなどを使ってほぐし、かき混ぜながらローストをされています。
ローストした後は必ず、篩で振わないと固まってしまうので注意が必要です。
シェフは好んで海洋深層水を使用されています。
マグネシウムやカルシウムなどが含まれていて、普通の水にはない焼き上がりの複雑な香りが出るためです。
硬度調整が必要であったり、含まれている無機物の影響で生地の締まり具合なども変わりますが海洋深層水のミネラルバランスが人間のミネラルバランスに近いということもあり使用されています。
海洋深層水と同様にミネラルが豊富な塩を好まれて使われています。
現在は沖縄県産の塩を使われていて、ミネラル分が10%以上入っているものを使用されています。
今回の講習会のレシピで全て塩は2%未満の配合となっていて、「塩の%が少ないのは何故ですか?」との質問もございました。
料理にも塩が使われているので、パンにも塩を多く入れるのは健康的に良くないとのことから、塩は控えめの配合にされています。
様々な種を使う目的として、自分が美味しいと思うところへ持っていくためのアイテムとして使われています。
最終的な味の着地点を考え、理想とする味に仕上げる為に組み合わせや量を変えておられます。
ルヴァンリキッドを入れる際はホイッパーを使って、しっかりと混ぜるのがポイントとのことです。
「酸素を入れることで安定してくる」ということで普段からしっかりと空気を含ませて使われています。
リキッドを入れる量は、そのパンに酸味が欲しいのか旨味が欲しいのかを考えて入れられます。
色々と試した中でフランス産の有機小麦粉を使用したものが理想とするルヴァンになったおっしゃられていました。
バゲットはEBT(江別)と名付けられⅠとⅡの2種類の配合×各アレンジ1種ずつの4種類を作っていただきました。
『キタノカオリ100』『ハルユタカブレンド』『E65』の3種類を使ったバゲットです。
E65の一部を5倍量ソースにして、ホップ種も配合したバゲットです。
香ばしいクラストを感じながら、口どけの良さも兼ね備えたクラムでとても美味しいバゲットでした。
アレンジには、PalamidasコールドプレスExvオリーブオイル・有機メープルシロップ(ダークロバストテイスト)・マロングラッセ・アーモンドホールを入れていただきました。
たっぷりと混ぜ込まれたマロングラッセの甘みとアーモンドホールの食感を存分に味わえて、生地との相性も抜群でありました。
2種類目のバゲットは『ハルユタカブレンド』『E65』を使用されていて、E65の一部を事前にローストして使われています。
ローストした小麦粉が入っている分、生地の色や焼き上がりのクラストも少し色濃く仕上がっています。
上記のバゲットEBTⅠと比べて、香ばしい香りが強く感じられ深みのある味わいでした。
アレンジには、ママパンでも人気のドライいちじくホールの赤ワイン煮と有機クルミを混ぜ込んでいただきました。
深みのある味わいのバゲットとの相性は抜群で、高級感を感じさせる仕上がりでした。
バゲット同様に、ⅠとⅡの2種類の配合×各アレンジ1種ずつの4種類を作っていただきました。
パン・ド・ミにはTKR(戸倉)と名付けていただいています。
両方ともに粉は『キタノカオリ100』『ハルユタカブレンド』を使用されていて、キタノカオリらしい少し黄色味がかった内層が綺麗なパンでした。
Ⅰの方はハルユタカブレンドの5倍量ソースを使用されています。
アレンジには、漬け込んだウズベキスタン産ジャンボゴールデンレーズンと有機ドライクランベリーを使っていただきました。
キタノカオリの生地とのコントラストも綺麗で、ジューシーなレーズンとクランベリーを感じることのできる仕上がりとなりました。
Ⅱの方はローストしたハルユタカブレンドを使用されています。
内装は少し茶色味がかっていて、アレンジの方は漬け込んだウズベキスタン産サヤキレーズンと有機クランベリーの組み合わせです。
サヤキレーズンの上品な甘みとクランベリーの酸味、香ばしい生地が上手く調和していました。
パン・ド・ミ用に食パン型も用意しましたが、直角に近い角度の型ですと、加水が高く生地が上がらないでしぼんで焼けてしまうようです。
普段は専用の角度の付いた食パン型を使用されますが、今回は少し角度の付いた「パニムール(木の型)」を使用して焼成していただきました。
「雫」の様に滴るパンとして名付けられた「オ ドゥ ブレ」。
『キタノカオリ100』を使用し、すごくもちもちとしたパンに仕上がっていました。
アレンジにはクレームドカシスに漬け込んだ有機ドライクランベリー、他にアーモンドホール、パルミジャーノ レジャーノが入っていてモチモチ感のある生地にクランベリーやアーモンドの食感が際立って、とても美味しかったです。
小麦粉によって加水率は変えられますが、最低でも97%の加水をオ ドゥ ブレにはされるそうです。
高加水でとろとろの生地なので、成形はせずに切りっぱなしで焼成をされています。
『強力全粒粉』を使用したこの全粒粉バゲットは、全粒粉入り(全粒粉ブレンド)のタイプではなく、全粒粉100%で作られています。
普段のバゲットよりも色付きしにくいので、普段のバゲット焼成温度に+10℃で焼成をされていました。
全粒粉100%と言うこともあり、焼き上がりの香りが強い仕上がりに。
しっかりとした味わいで、クラストからクラムまでしっかりと濃い味わいを感じることが出来ました。
アレンジには、ママパンでも販売している人気のウズベキスタン産ドライプルーンの赤ワイン煮を包んでいただきました。
全粒粉の持つ濃厚な味わいに負けないように、濃いめの味付けをプルーンに施されています。
濃い味わいの生地に負けないプルーンの存在感を味わえる、贅沢なアレンジとなりました
超高灰分のパン用小麦粉『TYPE100』と『E65』を使用したカンパーニュです。
『強力全粒粉』でつくる5倍量ソースを使用されていて、とても味わい深いカンパーニュでした。
小麦の味わいがしっかりと感じられ、「滋味深い」と思わせるパンでした。
アレンジには、ドライいちじくホールの赤ワイン煮、漬け込んだ有機ドライクランベリー・アプリコットや有機クルミ、ピスタチオ、有機ヘーゼルナッツととても具沢山なカンパーニュにしていただきました。
具材が多いので皮生地で包み込んで焼成し、断面はどこを切ってもたっぷりの具材で様々な味わいが楽しめる仕上がりでした。
『キタノカオリ100』と『コーングリッツ(中)』を使用したコーンパンは、とても香ばしい香りでもちもちとした生地にコーングリッツの食感がたまらない仕上がりとなりました。
そのままはもちろん、食事パンとして様々なお料理とも相性がいいパンだなと感じました。
コーンパンには、コーングリッツでつくる5倍量ソースが使用されています。
小麦粉でつくる5倍量ソースよりも、温度を上げないと水分の吸収ができないので、つくる際の温度は85℃くらいまで上げておられます。
アレンジとして、生コーンを入れたコーンパンも絶品でした。
コーンのつぶつぶ感が生地にアクセントを与え、「老若男女問わず、これは好きだな」と感じたパンでした。
分割した生地を濡らして、コーングリッツは生地全体にたっぷりと。
キャンバスにもコーングリッツを振っていて、どこを食べてもコーンを感じる仕上がりでした。
ランチタイムにはお昼までに焼き上がったパンと、江別製粉様と当社スタッフが仕込んだラタトゥイユとピクルス、オリーヴドゥリュック様のグリーンオリーヴと、サヤキレーズンとジャンボゴールデンレーズンをキャロットラべに合わせたサラダ、大山ハム様のカントリーローストとペッパーシンケンをランチボックスとして出させていただきました。
Signifiant Signifié様ともつながりのあります、たかみくらファーム様の野菜を使ったラタトゥイユは絶品でした。
また、コスモス食品様からご提供いただきました「オーガニックポタージュ コーン」は冷たい豆乳と割って冷製仕立てに。
全てがパンとの相性抜群で、美味しく健康的なランチタイムとなりました。
デザートとしてご用意いただきました「クラシックショコラ」。
濃厚な甘みでありながらも、ついつい「もう一口」と食べてしまう美味しさでした。
今回は『ドルチェ』を使用していますが、小麦粉抜きでも作れるレシピでしたので、材料の工夫次第でノンファリーヌでも行けるとのことでした。
膨らみ具合や食感に関わってくるポイントとなります「卵白のたて具合」について、写真の様に具合を見せていただきましたが、何度もチャレンジして自分の好きを見つけて欲しいとのアドバイスをいただきました。
卵白はしっかりと冷やしておいて、「砂糖は何回かに分けて入れる」とレシピなどではよく見かけますが、シェフは最初から全量入れられます。
そうすることで、細かく、弾力のある卵白がたつそうです。一度試されてみてはいかがでしょうか。
定期的にSNS等でも話題となる「クロワッサン」も、皆様に配るデザート用にミニサイズで作っていただきました。
『ハルユタカブレンド』『E65』『Type100』を使用されていて、PalamidasコールドプレスExvオリーブオイルも配合されています。
オリーブオイルを入れるのは、バターだと小麦粉とすり合わせるという作業が必要ですが、オリーブオイルにするとその手間が省けるとのことです。
また、アマニオイルやアボカドオイルも悪玉コレステロールへの対策としてオススメされていました。
出来上がったクラシックショコラと、ミニサイズのクロワッサン、たかみくらファーム様のいちじく、生ハム、アイスを合わせた豪華なデザートもご試食として出させていただきました。
生ハムに掛かっているソースは33の網代シェフが作られたソースで、驚くほどおいしく、作り方の質問が出るほど皆様も気になされていました。
合間にシェフ達も試食され、皆様笑顔でおいしいと絶賛されていました。
最後となりますが、講習会中にはパンのご説明やポイント以外にも、シェフのお考えについてのご質問もございました。
酵母量をできるだけ減らして発酵を長くすることで、でん粉の水和・遊離アミノ酸(旨味)の生成が進みます。
酵母が過剰にありすぎると、旨味であるグルタミン酸やイノシン酸を最終的に酵母が食べてしまいます。
上記のことから、発酵は抑えめにしつつ、生成される「旨味」を残すようにするために低温長時間発酵の手法を使われています。
この方法を使うことで、旨味の出方がディレクト法とは違ってきます。
色々と試された中で、効果が出たなと感じるには3時間はするとおっしゃっていました。
現在はオートリーズはあまりされていませんが、通常30~60分でされる方が多いなか、長時間オートリーズをされています。
3時間ほど、しっかりとオートリーズをすることで、生地がゆるむ等の効果を感じられるようです。
同様の効果を得るために、現在はホップ種や麹を砕いてペーストにして入れたりもされているようです。
哲学者を目指されていたという経歴は皆さん気になるところ。「哲学者を目指されていた際の経験で何か役立っていることはございますか?」と質問がございました。
その質問へのお答えとして、「心が何があっても折れないこと、自分の体力維持に関して冷静に見れること」とお話しをいただきました。
無茶な仕事も多くこなしていると語られる中で、体を壊されたことはなく、時には自然にも任せながら上手くコントロールをされています。
また、最近読まれた本の中ではカルロ・ロヴェッリの「時間は存在しない」という本が面白かったとのことです。
1カ月に2~3冊読むことを習慣にされていて、様々なジャンルのものを読まれています。
哲学を学ぶ中で間接的にいろいろなことを知ることで、様々な場面で役立つ知識として活躍するとおっしゃられていました。
自分の美味しいってどんなものなのか?というところをとことん追求して欲しい。
そうすることで、自分のスペシャリテが出来てくる。これが今回伝えたかった事。
シェフがやっているけど、私ならこうする。と極めて行ってほしい。
茶色い粉でタンパクを上げたければ粉の一部をローストしたり、イーストじゃない食感が欲しいときに酵母を使ったりとアイデアの引き出しを多く持つことが大切。
そのスペシャリテが1つあることで、自信にも繋がります。
世界でどこにもない自分のスペシャリテを買いに来てくださることも嬉しい事。
材料や配合を少し変えただけで、それは違うパンになる。だから真剣に挑め。とシェフが学んだ教えを皆さんも実践してくださるとうれしいです。
と最後にお話しいただきました。
シェフの引き出しの多さは、これまで真剣に取り組まれて積み上げてこられた膨大な知識があり、それを実践しているからこそ、形にすることが出来ているのだと感じました。
今回の講習会では多くの方が生地に触れ、パンに触れ、大変多くの学びを得られた濃密で贅沢な時間だったのではと思います。
これを読んだ皆様にも、少しでも何か気付きとなるものを得ていただけましたら幸いです。
写真左上から
協力: